パートナーの浮気を疑ったとき、まず頭に浮かぶのが「車にGPSを付ければ分かるのでは」という考えではないでしょうか。
費用をかけずに自分で確かめたい、という気持ちは自然なものだと思います。
ただ、無断でのGPS設置は、条件によっては刑事罰の対象になったり、あなたのほうが慰謝料を請求される側に回ったりします。
この記事では、GPSの無断設置が実際にどの法律の何条に触れるのかを、条文と罰則まで含めて整理します。
そのうえで、取れた記録が裁判でどこまで通用するのか、探偵に頼めば合法になるのかという点についても、探偵業法の条文をもとに確認していきます。
GPSの無断設置は、どの法律のどこに触れるのか
「GPSを付けたら違法」と一括りに語られがちですが、実際には触れる法律が複数あり、それぞれ成立の条件が違います。
条件を知らないまま動くと、自分がどのくらい危ない位置にいるのかが分からないまま進むことになってしまいます。
無断設置で問題になる3つの法律と罰則

| 法律 | どんな行為が当たるか | 罰則 |
|---|---|---|
| ストーカー規制法 第2条3項「位置情報無承諾取得等」 |
承諾を得ずに、相手の所持する物にGPS機器を取り付ける行為、およびその位置情報を取得する行為。ただし「恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」という目的の条件が付く。 | 反復してストーカー行為に至った場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(第18条)。禁止命令に違反した場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(第19条) |
| 刑法第130条 住居侵入等 |
GPSを取り付けるために、正当な理由なく他人の住居や、管理されている駐車場・敷地に立ち入る行為。GPSそのものではなく「入ったこと」が問われる。 | 3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。未遂も処罰の対象(第132条) |
| 民法上のプライバシー侵害 | 刑事事件にならない場合でも、無断で継続的に位置を把握し続ける行為は、人格的な利益を侵害したとして民事の損害賠償の対象になりうる。 | 刑事罰ではなく慰謝料などの損害賠償請求 |
注意したいのは、3つのうち住居侵入罪だけは、GPSの目的や設置後の行動と関係なく、敷地に入った時点で成立しうるという点です。
相手の実家の駐車場、浮気相手が住むマンションの来客用駐車場といった場所は、管理されている敷地に当たります。
自宅の敷地に停めてある夫婦共用の車と、他人が管理する駐車場に停めてある車とでは、リスクの性質がまったく違います。
ストーカー規制法の位置情報規制は2021年に加わった
GPSの話になると「2017年の法改正で違法になった」という説明を見かけますが、これは正確ではありません。
ストーカー規制法に位置情報の規定が入ったのは、令和3年法律第45号による改正です。
2021年5月26日に公布され、GPSに関する第2条の改正部分は公布から3か月後の2021年8月26日に施行されました。
2017年1月に施行された改正(平成28年法律第102号)で追加されたのはSNSのメッセージ送信などで、GPSは対象に入っていません。
もうひとつ、条文上の区別も押さえておきたいところです。
GPSによる位置情報の取得は、待ち伏せや無言電話などを指す「つきまとい等」(第2条1項)ではなく、「位置情報無承諾取得等」(第2条3項)という別の枠で定義されています。
「つきまとい等に当たる」と書いている解説は、条文の枠組みを取り違えたまま説明していることになります。
罰則が科されるのは「反復した」場合に限られる
条文をもう一段読むと、処罰される「ストーカー行為」の定義は第2条4項にあります。
同一の者に対して、つきまとい等または位置情報無承諾取得等を反復してすること、と書かれています。
つまり、1回付けて1回位置を見ただけで、ただちに第18条の罰則が適用されるわけではありません。
一方で、警察本部長等による警告(第4条)や、公安委員会による禁止命令(第5条)は、反復のおそれがある段階で出されます。
禁止命令が出た後に同じ行為を続ければ、そこからは第19条の重い罰則の範囲に入ります。
第2条3項には「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で」という条件が付いています。この点をとらえて「浮気の証拠集めが目的ならストーカー規制法には当たらない」と説明する弁護士の解説もあります。
ただし、これはストーカー規制法という1つの法律に当たらない可能性がある、というだけの話です。住居侵入罪も、プライバシー侵害を理由とする損害賠償も、目的とは関係なく成立します。「証拠集めのためだから大丈夫」という理解は成り立ちません。
スマホに追跡アプリを入れる行為は、車のGPSと線引きが違う
車への設置より手軽に見えるのが、パートナーのスマートフォンに追跡アプリを入れる方法です。
ただ、こちらは触れる法律が変わるうえ、取り返しのつかない範囲まで踏み込みやすくなります。
ロックを解除しただけでは不正アクセス禁止法には当たらない
「無断でスマホのロックを解除するのは不正アクセス禁止法違反」という説明が広く出回っていますが、条文と照らすと言い過ぎです。
不正アクセス禁止法第2条4項は、不正アクセス行為を3つの類型で定義していて、3つとも「電気通信回線を通じて」という条件が入っています。
手元にある端末のロック画面にパスコードを打ち込む行為は、回線を通じたアクセスではないため、この定義には収まりません。
法律に当たらないから問題ない、という話ではもちろんありません。
無断で他人の端末を操作することは、プライバシー侵害を理由とする損害賠償の対象になりますし、後の話し合いで立場を悪くする材料にもなります。
回線の向こう側に入った時点で線を越える
一方で、その端末から本人のIDでLINEやクラウドサービス、メールにログインすると、第2条4項1号の不正アクセス行為に当たりえます。
パソコンから相手のアカウントにログインして履歴を見る行為も同じです。
パスワードを盗み見て控えておく行為は、それ自体が第4条の「他人の識別符号を不正に取得する行為」として禁止されています。
- 相手のIDでLINEやGmailにログインして中身を見る
- クラウドの写真・位置情報履歴にログインして確認する
- 後で使うつもりでパスワードをメモしておく
スマホに手を伸ばす前に、自分で確認できる範囲がどこまでかを整理しておくと、踏み外しにくくなります。
自力でできる調査の線引きは別の記事で扱っています。

違法に集めた記録は、使えないだけでは済まない
法的リスクを取ってでも証拠が手に入るなら、と考える方もいるかもしれません。
ただ、違法な手段で集めた記録には、二重の不利益が付いてきます。
裁判で採用されない可能性がある
民事裁判では、違法に収集された証拠であっても直ちに排除されるわけではありませんが、収集方法の悪質性が高いほど証拠として採用されにくくなります。
苦労して取った記録が、肝心の場面で使えないという結果になりかねません。
こちらが請求される側に回る
より現実的なのは、無断設置そのものを理由に相手からプライバシー侵害の慰謝料を請求されるという展開です。
離婚の話し合いでも、浮気の事実を追及する立場から、自分の行為を弁明する立場へと構図が変わります。
不貞の慰謝料を請求したかったはずが、相殺のかたちで目減りしていくケースもあります。
そもそもGPS記録では「不貞行為」を証明できない
| 何がわかるか(GPSで得られる情報) | 裁判での位置づけ(有効性) | 不足している点/補う方法 |
|---|---|---|
| 位置情報・滞在時間(いつどこにいたか) | 浮気の疑いを強める補助的証拠に留まる | 肉体関係そのものを証明できない。ホテル出入りを捉えた鮮明な写真・動画や、複数回の継続的な証拠で補強する必要がある。 |
| 特定の場所(浮気相手宅やホテルの駐車場)への出入り履歴 | 単独では決定的証拠になりにくい | 出入りの瞬間を連続した時系列で撮影した写真・動画、滞在時間や密室性を示す付随情報で補う必要がある。 |
| 行動パターン(移動のクセや頻度) | 調査の方針決定や尾行の予備情報として有用 | 裁判で有効にするには、尾行・撮影で決定的な場面を押さえ、日時や経過が追える報告書にまとめる必要がある。 |
慰謝料請求の根拠になる「不貞行為」は、肉体関係があったことを指します。
GPSが示すのは車や端末がどこにあったかという事実だけなので、誰と一緒にいたのかも、そこで何があったのかも記録には残りません。
浮気相手の自宅の前に3時間停まっていた記録があっても、それだけでは疑いを強める材料の域を出ないということです。
裁判で通用する証拠の条件については、こちらでまとめています。

探偵に頼めば違法にならない、という理解は誤り

探偵に任せれば、同じGPS調査でも合法にできると思われがちですが、探偵業法はむしろ逆のことを書いています。
探偵業法第6条が明記していること
探偵業法第6条には、探偵業者は探偵業務を行うにあたって「この法律により他の法令において禁止又は制限されている行為を行うことができることとなるものではないことに留意する」とあります。
探偵の届出があっても、他の法律で禁じられていることは同じように禁じられているという意味です。
同条には続けて、人の生活の平穏を害するなど個人の権利利益を侵害しないようにしなければならない、とも書かれています。
探偵が第三者の車に無断でGPSを付ければ、依頼者がやった場合と同じく違法になりますし、実際にプライバシー侵害を認めた裁判例も弁護士の解説で紹介されています。
依頼する側にも書面の義務がある
第7条は、探偵業者が契約するとき、依頼者から「調査結果を犯罪行為や違法な差別的取扱いその他の違法な行為のために用いない旨を示す書面」の交付を受けなければならない、と定めています。
第9条1項では、調査結果が違法な行為に使われると知ったとき、探偵業者はその業務を行ってはならないとされています。
つまり、違法な目的の調査は、依頼する側も受ける側も成り立たない仕組みになっています。
探偵が合法にGPSを使える範囲
では探偵のGPS利用が一律に禁じられているかというと、そうではありません。
- 依頼者名義の車両など、依頼者自身の所有物に取り付ける
- 調査対象者の承諾がある
- 尾行の補助として使い、証拠そのものは尾行と撮影で押さえる
無断設置を積極的に勧めてくる事務所や、「バレなければ問題ない」と説明する事務所は、この線引きを持っていないということになります。
契約前の相談の場で、調査方法の適法性をどう説明するかを見ておくと判断材料になります。
依頼する前に、自分で確認できること

探偵事務所の見極めは、相談に行く前の段階でもある程度できます。
届出番号は公式サイトで確認できる
探偵業法第12条2項は、届出を示す標識について、営業所の見やすい場所への掲示に加えて、電気通信回線に接続して行う自動公衆送信により公衆の閲覧に供しなければならないと定めています。
除外されるのは、常時使用する従業者の数が5人以下の場合と、自社で管理するウェブサイトを持っていない場合です(青森県警の案内による)。
小規模な事務所に掲示義務はないので、それ以外の事務所なら届出番号は公式サイトで確認できる状態になっているはずだということです。
広告を大きく出している事務所なのにサイトのどこにも届出番号が見当たらない場合は、相談の場で聞いてみてください。
同条3項では、探偵業者以外の者がこの標識や類似の標識を掲示することも禁じられています。
契約前に書面で説明される9項目
第8条1項は、契約前にあらかじめ書面を交付して説明すべき事項を9つ挙げています。
- 商号・名称・氏名と住所、法人なら代表者名
- 届出をした公安委員会の名称
- 個人情報保護法その他の法令を遵守すること
- 秘密の保持に関する事項
- 提供できる探偵業務の内容
- 探偵業務の委託に関する事項
- 対価その他支払う金銭の概算額と支払時期
- 契約の解除に関する事項
- 調査で作成・取得した資料の処分に関する事項
口頭の説明だけで契約を進めようとする事務所は、この時点で法律の求める手続きを満たしていません。
7番目の「概算額」は、追加費用の発生条件まで含めて確認しておきたい項目です。
契約後は第8条2項により、調査の内容・期間・方法、報告の方法と期限などを記した書面が交付されます。
事務所の見極め方をもう少し詳しく知りたい場合は、こちらもあわせてご覧ください。

まとめ
GPSの無断設置は「違法か合法か」の二択ではなく、どの法律のどの条件に触れるかで結論が変わります。
- ストーカー規制法の位置情報規制は2021年8月26日施行。条文上は「つきまとい等」ではなく「位置情報無承諾取得等」(第2条3項)で、目的と反復性の条件が付く
- 他人が管理する駐車場や敷地に入って設置すれば、目的と関係なく住居侵入罪(刑法第130条・3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)が成立しうる
- スマホのロック解除だけでは不正アクセス禁止法に当たらないが、回線を通じてアカウントにログインすれば該当する
- GPS記録は場所しか示さないため、それだけでは不貞行為の証明にならない
- 探偵業法第6条により、探偵に依頼しても他の法令の禁止はそのまま適用される
証拠を集めたい気持ちと、自分が請求される側に回るリスクは、すぐ隣り合っています。
判断に迷う場面では、契約前に書面で説明を受けられる仕組みが法律で用意されていることを思い出して、その場で確かめてから進めてください。
FAQ
自分でGPSを仕掛けたことがバレたら、どうなりますか?
さらに、パートナーは浮気行動を徹底的に隠すため、その後の証拠収集が極めて困難になり、問題解決が遠のくでしょう。
GPSの履歴を弁護士に見せたら、すぐに裁判で使えますか?
弁護士は、それを「浮気を疑う根拠」や調査方針を立てるための参考情報として活用しますが、慰謝料請求の決定打にはならないことを理解しましょう。
探偵は、私に代わってパートナーの車にGPSを仕掛けてくれますか?
探偵業法第6条は、探偵業務であっても他の法令で禁止・制限されている行為を行えるようになるわけではないこと、人の生活の平穏を害するなど個人の権利利益を侵害しないようにしなければならないことを定めています。
無断設置を勧めてくる事務所に依頼すると、依頼したあなた自身も責任を問われかねません。
探偵がGPSを使えるのは、依頼者名義の車両など依頼者自身の所有物に限られるのが原則です。
GPS調査で居場所がわかったとき、自分でホテルに乗り込んでも大丈夫ですか?
感情的になって現場に乗り込むと、証拠を失うだけでなく、夫婦関係を修復できる可能性を完全に断ち切ることになります。
また、相手に怪我をさせれば、暴行罪や傷害罪に問われるリスクも生じます。
証拠はプロに任せ、あなたは冷静さを保つことが重要です。
GPSで浮気相手の家が分かった場合、自分で乗り込むのは得策ですか?
他人の住居や管理されている敷地に無断で立ち入れば、刑法第130条の住居侵入罪に当たります。罰則は3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金で、未遂も処罰の対象です。
相手が留守であっても、玄関前やマンションの共用部分に入った時点で問題になりえます。
その場で写真が撮れたとしても、立ち入りの経緯まで含めて争われるため、証拠としての立場はかえって弱くなります。

